慶應義塾大学法学部を総合型選抜で考えるなら、中心になるのがFIT入試です。ただし、FIT入試は「活動実績を出せば評価される入試」ではありません。法律学科または政治学科を第一志望とし、法学部で学ぶ理由、入学後の目標、これまでの学業や活動、そして第2次選考での思考力まで見られる入試です。
結論から言うと、慶應義塾大学法学部FIT入試は、A方式とB方式を同じ対策で進めると危険です。A方式は活動実績や自己推薦書を含む人物評価と、模擬講義後の論述・口頭試問への対応が重要です。B方式は評定条件、地域ブロック、総合考査、面接を前提に準備する必要があります。
この記事では、慶應義塾大学が公開している2027年度法学部FIT入試募集要項と公式FAQをもとに、法学部志望者が出願前に見るべきポイントを解説します。年度によって日程・条件・選考内容は変わるため、最終判断は必ず慶應義塾大学の最新募集要項で行ってください。

慶應義塾大学法学部FIT入試とは
FIT入試は、慶應義塾大学法学部の総合型選抜です。法学部公式ページでは、法学部教員が「教えてみたい」と考える学生と、第一志望で法学部法律学科・政治学科で学びたい学生との良好な相性を実現する入試として説明されています。FITは「Flexible and Intelligent Thinking」の略でもあります。
ここで大切なのは、FIT入試が単なる一芸入試ではないという点です。募集要項では、FIT入試は学科試験を課さない意味では総合型選抜でありながら、高い学力に裏打ちされた法律学・政治学への素養を確認する入試として位置づけられています。
つまり、活動歴やリーダー経験があっても、法学部で何を学ぶのかが弱ければ評価につながりにくくなります。逆に、活動の規模が大きくなくても、社会の問題をどう捉え、法律学・政治学の学びにどう接続するかを説明できれば、FIT入試で検討する価値があります。
A方式とB方式の違いを先に押さえる
FIT入試では、法律学科と政治学科の併願はできません。一方で、同じ学科の中でA方式とB方式の両方に出願することは可能です。ここを取り違えると出願設計そのものが崩れます。
| 項目 | A方式 | B方式 |
|---|---|---|
| 出願する学科 | 法律学科または政治学科のどちらか | 法律学科または政治学科のどちらか |
| A・B併願 | 同一学科内で可能 | 同一学科内で可能 |
| 主な出願条件 | 第一志望で入学を確約できること、学業を含む活動実績など | 第一志望で入学を確約できること、調査書発行、指定教科と全体の学習成績の状況4.0以上など |
| 方式固有の書類 | 自己推薦書 | 評価書 |
| 第2次選考 | 模擬講義後の論述試験、口頭試問 | 総合考査I・II、面接試験 |
| 向いている受験生 | 活動実績や問題意識を法学部での学びと結びつけて示せる人 | 評定条件を満たし、地域ブロックも踏まえて学力・思考力を示せる人 |
A方式とB方式は、名前は近くても見られ方が違います。A方式は自己推薦書で自分の取り組みをどう示すかが重く、B方式は調査書の評定条件と高校教員による評価書が関わります。
最初にやるべきことは、志望理由書を書き始めることではなく、自分がA方式・B方式のどちらに出願できるのか、両方出せるのかを要項で確認することです。
募集人員と地域ブロック
2027年度募集要項では、募集人員は法律学科がA方式・B方式合計で最大80名、政治学科もA方式・B方式合計で最大80名とされています。B方式では、日本全国を7つの地域ブロックに分け、各ブロックから法律学科・政治学科それぞれ最大10名程度を合格者とする考え方が示されています。
| 地域ブロック | 都道府県 |
|---|---|
| 北海道・東北 | 北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島 |
| 北関東・甲信越 | 茨城、栃木、群馬、新潟、山梨、長野 |
| 南関東 | 埼玉、千葉、東京、神奈川 |
| 北陸・東海 | 富山、石川、福井、岐阜、静岡、愛知、三重 |
| 近畿 | 滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山 |
| 中国・四国 | 鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知 |
| 九州・沖縄 | 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 |
地域ブロックは、出身高等学校等の所在地で区別されます。ただし、ブロックごとの人数は機械的な合格枠ではありません。公式FAQでも、地域ブロックの定員より出願者が少ない場合でも選考は行われ、必ず合格するわけではないと説明されています。
B方式を考える人は、「自分の地域は出願者が少なそうだから有利」と短絡的に考えないほうがよいです。地域ブロックは制度上の枠組みであり、合否はあくまで総合的な選考で決まります。
出願資格で最初に確認すること
A方式とB方式では、出願資格の見方が違います。
A方式では、高校卒業見込みなどの大学入学資格に加えて、慶應義塾大学法学部の法律学科または政治学科を第一志望とし、合格した場合に入学を確約できることが求められます。さらに、学業を含めたさまざまな活動に積極的に取り組み、優れた実績をあげた者という条件があります。
募集要項では、外国語学習、文化・芸術・技芸・運動、学外活動や課外活動でのリーダーシップ、ボランティアや地域活動、国際交流、学業分野での優秀な成績、その他ユニークな実績などが例示されています。
B方式では、A方式と同じく第一志望であることに加え、調査書の発行を受けられること、指定教科と全体の学習成績の状況が4.0以上であること、在籍または卒業した高校等の教員から評価書を提出できることが重要です。指定教科は外国語、数学、国語、地理歴史、公民です。
| 確認項目 | A方式で見ること | B方式で見ること |
|---|---|---|
| 第一志望性 | 法律学科または政治学科で学ぶ理由を説明できるか | 同じく第一志望で入学確約できるか |
| 活動・実績 | 自己推薦書で示せる実績や学びがあるか | 活動よりも評定・評価書・総合考査への準備が中心 |
| 評定 | 明確な一律条件としてはB方式ほど前面に出ない | 指定教科と全体の学習成績の状況が4.0以上 |
| 高校との連携 | 調査書や証明資料の準備 | 調査書と評価書の準備が必須 |
特にB方式は、1教科でも指定教科の学習成績の状況が4.0未満だと出願資格を満たさない扱いが示されています。評定に不安がある場合は、自分で判断せず、まず高校の先生に調査書上の記載を確認してください。
出願書類は役割を分けて作る
2027年度募集要項では、A方式・B方式に共通する書類として、志願確認票、志願者調書、志望理由書、調査書等が示されています。A方式のみ自己推薦書、B方式のみ評価書が必要です。
| 書類 | A方式 | B方式 | 見られるポイント |
|---|---|---|---|
| 志願者調書 | 必要 | 必要 | 基本情報、活動や学びの全体像 |
| 志望理由書 | 必要 | 必要 | なぜ法学部で法律学・政治学を学ぶのか |
| 自己推薦書 | 必要 | 不要 | A方式で自分の取り組みと社会への貢献可能性を示す |
| 評価書 | 不要 | 必要 | B方式で高校教員による評価を提出する |
| 調査書等 | 必要 | 必要 | 学業状況、出願資格確認 |
志望理由書では、慶應義塾大学法学部で法律学または政治学を学ぼうと考えた理由と、その学びが将来においてどのような意味を持つのかを800字以内で記述する形式です。短い字数なので、大学名への憧れを広く書く余裕はありません。
書類を作るときは、次の順番で考えると崩れにくくなります。
| 順番 | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 1 | 法律学科か政治学科かを決める | 学びたい内容を絞る |
| 2 | 自分の問題意識を1つに絞る | 志望理由書を散らさない |
| 3 | 高校時代の活動・学業経験を棚卸しする | 書類に書ける根拠を集める |
| 4 | 法学部の学びと接続する | 入学後の学びに説得力を持たせる |
| 5 | 卒業後または社会への関わりを考える | FIT入試で見られる将来像につなげる |
たとえば、法律学科志望なら「法曹になりたい」だけでは弱くなります。なぜ法を学ぶ必要があるのか、どの社会課題を法的に捉えたいのか、慶應法学部でどのような力を伸ばしたいのかまでつなげたいところです。
政治学科志望なら、「政治に興味がある」だけで止めず、地域、国際関係、行政、政策、情報発信、世論、選挙、公共性など、自分が追いたいテーマを具体化してください。
A方式の第2次選考:模擬講義、論述、口頭試問
A方式の第2次選考では、模擬講義と論述試験、口頭試問が行われます。2027年度募集要項では、模擬講義が50分、論述試験が45分、口頭試問が約15分とされています。
論述試験では、法律学または政治学の修得に必要な理解力、考察力、表現力などが評価されます。つまり、事前に暗記した志望理由を出す場ではありません。講義を聞き、要点を整理し、自分の言葉で論理的に書く力が必要です。
口頭試問では、複数の教員と1名の受験生で、口頭で与えられたテーマについて質疑応答を行います。募集要項では、学問的な理解力や知的表現力などを考査すると説明されています。2027年度は、開始前の自己紹介の機会は設けないと明記されています。
A方式の準備では、次の3つを分けて練習してください。
| 準備 | 具体的にやること |
|---|---|
| 講義メモ | 50分程度の講義やニュース解説を聞き、主張・根拠・具体例をメモする |
| 論述 | 45分で論点整理、構成、結論まで書き切る |
| 口頭試問 | 自分の意見を短く述べ、追加質問に答える練習をする |
活動実績がある人ほど、口頭試問で活動紹介に寄りすぎることがあります。FIT入試で問われるのは「すごい活動をしたか」だけではありません。その活動から何を考え、法律学・政治学の観点でどう深めたいのかを答えられる状態にしておきましょう。
B方式の第2次選考:総合考査と面接
B方式の第2次選考では、総合考査I・IIと面接試験が行われます。2027年度募集要項では、総合考査Iが45分、総合考査IIが45分、面接試験が約10分とされています。
総合考査Iでは、与えられた資料から読み取れることを400字程度にまとめます。資料は、グラフ、表、データ、条文、判例などが想定されています。社会科学に必要な論理的思考力や考察力が評価されます。
総合考査IIでは、与えられたテーマのもと、400字程度の小論文を書きます。ここでは、創造力、独創性、発想力が考査されます。
| 総合考査 | 見られる力 | 練習方法 |
|---|---|---|
| I | 資料読解、論理的思考、要約 | グラフや統計を見て、事実と解釈を分けて400字で書く |
| II | 発想力、独創性、テーマへの応答 | 社会問題に対して、原因・対立点・自分の提案を書く |
| 面接 | 志望理由、理解度、受け答え | 志望理由書の内容を口頭で説明し、深掘り質問に答える |
B方式は評定条件があるため、書類段階では学業面の安定感が前提になります。ただし、評定を満たせば合格に近づくという単純な入試ではありません。総合考査では、短時間で資料を読み、論点を立て、過不足なく書く力が問われます。
A方式とB方式のどちらを選ぶべきか
A方式とB方式の選び方は、「どちらが簡単か」ではなく「自分の根拠をどちらで示しやすいか」で考えます。
A方式を優先して考えたいのは、活動実績、探究、課外活動、語学、地域活動、コンテスト、リーダー経験などを、法学部の学びに接続できる人です。ただし、証明資料を出せるか、自己推薦書で筋道立てて示せるかまで確認してください。
B方式を優先して考えたいのは、指定教科と全体の学習成績の状況が4.0以上で、調査書と評価書の準備ができ、総合考査型の問題に向き合える人です。地域ブロックはありますが、地域枠だけで判断しないほうがよいです。
両方に出願できる場合でも、準備量は増えます。志望理由書は共通でも、自己推薦書、評価書、二次選考の形式が違うため、同じ文章や同じ練習で済ませないでください。
高1・高2・高3で準備すること
高1・高2の段階なら、まず法学部で扱うテーマに触れてください。法律学科なら、憲法、民法、刑法、行政、裁判、権利、制度設計。政治学科なら、政策、国際関係、地域社会、選挙、行政、公共性などが入口になります。
高2のうちに、活動や探究を「法学部で学ぶ理由」に変換する練習を始めたいところです。活動そのものが目的になると、志望理由書で大学の学びとつながりません。自分の経験から問いを作り、法学・政治学で深める形にしていきます。
高3では、まず出願資格の確認です。B方式を考えるなら評定条件を学校で確認し、評価書をお願いできるかも含めて早めに相談してください。A方式を考えるなら、自己推薦書に添付する証明資料が間に合うか確認します。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 高1 | 法律・政治・社会問題に触れ、関心テーマを広げる |
| 高2 | 活動や探究を記録し、法学部で学ぶ理由に接続する |
| 高3春 | A方式・B方式の出願資格、評定、証明資料を確認する |
| 高3夏 | 志望理由書、志願者調書、自己推薦書または評価書準備を進める |
| 出願後 | A方式は講義理解と口頭試問、B方式は総合考査と面接を練習する |

よくある質問
FIT入試はAO入試と同じですか?
現在の制度上は総合型選抜として扱われますが、慶應義塾大学法学部ではFIT入試という独自の方式名で実施されています。A方式・B方式、出願書類、第2次選考の形式があるため、一般的なAO入試という言葉だけで判断しないでください。
法律学科と政治学科を併願できますか?
FIT入試では、法律学科と政治学科の併願はできません。同じ学科内でA方式とB方式の両方に出願することは可能です。志望学科の選択は、志望理由書や第2次選考の受け答えにも関わるため、早めに決めてください。
B方式は評定4.0以上なら出願できますか?
B方式では、指定教科と全体の学習成績の状況が4.0以上であることなどが示されています。ただし、評定だけで出願資格全体を満たすわけではありません。調査書の発行、評価書、第一志望性なども確認が必要です。
浪人生でも受験できますか?
公式FAQでは、FIT入試は浪人生や社会人でも受験可能であり、現役高校生かどうか自体による有利・不利はないと説明されています。ただし、B方式は調査書の発行を受けられる場合に限られるため、卒業後に出願する人は学校へ確認してください。
地域ブロックの出願者が少なければ合格しやすいですか?
地域ブロックは出身高等学校等の所在地で区別されますが、出願者が少ないから全員合格になる制度ではありません。公式FAQでも、定員より出願者が少ない場合でも選考は行われるとされています。B方式でも、書類、総合考査、面接の準備が必要です。
まとめ:FIT入試は方式選びから対策が始まる
慶應義塾大学法学部FIT入試は、法律学科・政治学科を第一志望とする受験生を対象にした総合型選抜です。A方式とB方式では、出願条件、提出書類、第2次選考が異なります。
A方式では、活動実績や自己推薦書を通じて、自分の経験と法学部での学びを接続する力が問われます。B方式では、評定条件や地域ブロックを踏まえつつ、総合考査と面接で社会科学的な思考力を示す必要があります。
最初に確認すべきなのは、A方式・B方式のどちらに出願できるか、法律学科・政治学科のどちらを第一志望にするかです。そのうえで、志望理由書、自己推薦書または評価書、第2次選考対策を分けて進めてください。
FIT入試は、慶應法学部で学びたい理由を、書類と試験の両方で示す入試です。方式名だけで判断せず、最新の募集要項を読み、A方式・B方式それぞれに合わせて準備しましょう。

参考情報
- 慶應義塾大学「法学部 FIT入試」 https://www.keio.ac.jp/ja/admissions/faculty/examinations/ao-law/ (確認日:2026年9月13日)
- 慶應義塾大学「2027年度 法学部FIT入試 募集要項」 https://www.keio.ac.jp/fixed-files/2027_fit_youkou.pdf (確認日:2026年9月13日)
- 慶應義塾大学「FIT入試に関する質問」 https://www.keio.ac.jp/ja/admissions/faculty/faq/ao-law/ (確認日:2026年9月13日)
- 慶應義塾大学法学部「入試情報」 https://www.keio.ac.jp/ja/law/admission/exam/ (確認日:2026年9月13日)


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